ウィークスが考える暮らしの豊かさ

days of weeks | archive no.009

広島市現代美術館『フィンランド スピリット サウナ』
関連プログラム トークイベントに石井風子が登壇しました

「フィンランドの暮らしとはどんなものか?」
そのヒントを探るトークイベントが開催されました。
登壇したのは、イラストレーターの浜竹睦子さんと、B・B・B POTTERSディレクターの石井風子。異なる視点からフィンランドに触れてきたお二人の言葉は、やがて“暮らし方”というひとつのテーマへと重なっていきます。

days of weeks|日々を助ける瓶詰めで、料理を楽しみ豊かな食卓を/サルボ恭子さんimage

トークは、お二人の関係性から始まりました。
石井は、浜竹さんが発行する手作り新聞『KAZOKU GAHO』の愛読者。届くたびに、思わず仕事の手を止めて読んでしまうほど楽しみにしているといいます。一方の浜竹さんは、小学生の頃から続けてきた創作が今も形を変えながら続いていると語ります。

フィンランドへの旅から石井が初めてフィンランドを訪れたのは2007年、福岡の伝統工芸「小石原焼」を再解釈した“小石原ポタリー”の可能性を探るためでした。ヘルシンキの街で行ったのは、即興的な商品撮影。器を港や公園などの風景の中に置いてみたり、カフェの食事を持参した器に盛り替えてみたり——。そのとき感じたのは、「フィンランドの空気と日本の器が調和する」という発見でした。

さらに2017年には、アルヴァ・アアルトの建築や家具を巡る旅へ。アトリエや自邸、図書館などを訪れる中で強く印象に残ったのは、「ここで暮らしたい」と思わせる空間だったといいます。設計図の収納や壁の使い方、しつらえなど、細部に宿る工夫は店づくりのヒントにもなりました。 “美しさ”と“使いやすさ”が自然に共存している点に、大きな魅力を感じたそうです。

days of weeks|日々を助ける瓶詰めで、料理を楽しみ豊かな食卓を/サルボ恭子さんimage

空間が人を整えるということなかでも強く語ったのが、パイミオサナトリウムでの体験でした。柔らかな曲線、効果的に使われた色彩、そして人の心身を思いやる設計。空間に身を置くだけで、呼吸が深くなるような感覚。そこには「デザインが人に与える力」が確かに存在していました。

days of weeks|日々を助ける瓶詰めで、料理を楽しみ豊かな食卓を/サルボ恭子さんimage

また、アアルトが設計したレストランサヴォイでのエピソードも印象的です。
ザリガニ専用のエプロンやナイフなど、“用途のための道具”が自然に用意されていること。石井は「使ってこそ楽しい道具を」という自身の考えと重ね合わせながら、その豊かさを語りました。

days of weeks|日々を助ける瓶詰めで、料理を楽しみ豊かな食卓を/サルボ恭子さんimage

サウナは“特別なもの”ではない浜竹さんにとってフィンランドとの出会いは、映画『かもめ食堂』でした。
ロケ地を巡る旅をきっかけに、サウナ文化にも触れていきます。ウルヨンカツの公共プールでは人生初のロウリュを体験。“ぬし”と呼ばれるサウナを取り仕切る常連さんに出会ったり、知らない人同士が自然に会話を交わしたりと、日本の銭湯と共通する空気があると語られました。

days of weeks|日々を助ける瓶詰めで、料理を楽しみ豊かな食卓を/サルボ恭子さんimage<ウルヨンカツ公共プール>

days of weeks|日々を助ける瓶詰めで、料理を楽しみ豊かな食卓を/サルボ恭子さんimage<浜竹さんの人生初ロウリュ>

days of weeks|日々を助ける瓶詰めで、料理を楽しみ豊かな食卓を/サルボ恭子さんimage

印象的だったのは、フィンランドの人々にとってサウナが特別なものではなく、暮らしの中に自然に根づいていること。そして、その文化に誇りを持っていることでした。

days of weeks|日々を助ける瓶詰めで、料理を楽しみ豊かな食卓を/サルボ恭子さんimage<フィンランド最古の公共サウナ“ラヤポルティ”>

「つくりすぎない」という価値観トークの終盤、お二人の言葉は自然と重なっていきました。
フィンランドの魅力として挙げられたのは、
「自然と共存すること」
「手をかけすぎないこと」
「つくりすぎないこと」。

石井は、bbb hausをつくる際にもその考え方を大切にしたと語ります。環境に無理をさせず、その土地にあるものを活かすという姿勢です。

days of weeks|日々を助ける瓶詰めで、料理を楽しみ豊かな食卓を/サルボ恭子さんimage

浜竹さんもまた、「力まず暮らすこと」の大切さに気づかされたといいます。 特別なことをしなくても、日常の中に豊かさはある——。

days of weeks|日々を助ける瓶詰めで、料理を楽しみ豊かな食卓を/サルボ恭子さんimage

フィンランドの暮らしとは何か最後に語られた言葉が、このトークを象徴していました。
石井は、日本の「衣食住」という言葉に対し、フィンランドの「住食衣」の順番がしっくりくるといいます。まず“暮らし”があり、その上に食や装いがあるという考え方です。

浜竹さんにとってフィンランドは、「無理せずいられる場所」。
好きなことにふらりと近づき、自分のペースを取り戻せる場所だと語りました。

フィンランドのライフスタイルは、決して特別なものではありません。
むしろ、日々の暮らしの中に自然と溶け込んでいるものです。
今回のトークは、その“あたりまえ”の豊かさに気づかせてくれる時間となりました。

特別展 フィンランド スピリット サウナ ー建築、デザインからサウナハットまで

開催期間:2026年3月14日(土) — 6月28日(日)
広島市現代美術館(広島県広島市南区比治山公園1-1)
https://www.hiroshima-moca.jp/

浜竹睦子(はまたけ・むつこ)

イラストレーター。1979年福岡生まれ、岡山在住。美術館勤務を経て独立。食や酒、サウナなどの現場を訪ね、作り手の思いや背景を取材し、イラストと文章で表現している。著書に『偏愛サウナめぐり』(誠文堂新光社、2024)、『自家製はエンタメだ。』(サンクチュアリ出版、2025)など。
https://hamatakemutsuko.com

posted2026/05/26